税効果会計を完全に理解せよ!③

前回からの税効果会計の記事の続き。前回、税効果会計は資産負債法によると書きましたが、その特徴と意味を確認しましょう!

と、その前に税効果の主たる目的を先に書いておきます。

それは、「将来の税金支払の影響額をストック情報としてB/Sに表示させるため」です!これをはじめに知った上で以下を読んでいただければ、税効果会計を完全に理解せよ!①で書いた「会計上の利益と税金をうまく対応させるため」などおまけ程度だということが分かるはずです。(ちょっとむずかしいです)

1.一時差異等

現行制度上の税効果会計では、利益と課税所得の差異ではなく会計上と税務上の資産負債の差額に適用します。税金計算は、利益(課税所得)をベースに行われるのに、なぜ『資産負債』なのか!?

一言でいうと、会計上で収益も費用も計上されない事象でも、将来の税金支払の影響を表示すべきものがあるからです。例えば、その他有価証券評価差額金が有名。

借方 貸方
その他有価証券 50 その他有証評価差額金 50

このとき、「その他有価証券評価差額金」はP/Lに計上されません。そのため、一時差異が他に無い場合は、会計上の税金計算額と税務上の税金計算額は同額になりますよね。ズレがないのだから繰延法で考えた場合、税効果会計を適用する意味はないように思えます。

しかし、将来この「その他有価証券」を売却するとき税金が発生します。そして”もし当期末時点で売却したら”で考えて計算される税金支払の影響額を繰延税金負債で計上するわけです。この例でいうと『将来20の税金を支払う予定(見込)』を負債計上という感じです。

借方 貸方
その他有価証券 50 その他有証券価差額金 30
繰延税金負債 20

このように、利益と課税所得に差異は与えないが、将来の税金支払いに影響を与えるようなものを認識するために、資産負債法では、『一時差異等』と定義しているのです。

これは必ず理解しなければいけません!収益費用と益金損金のズレだけでは、当期の税金影響額しか認識できませんが、資産負債のズレで考えると将来の影響を認識できるのです。

2.将来解消する期の税率で税効果を計算

資産負債法の主目的は「将来の税金支払の影響額をストック情報としてB/Sに表示させるため」というくらいだから、税効果会計計算に使用する税率は、一時差異等が解消する期の税率を使うべきです。

例えば土地の減損損失により会計上と税務上の資産額に差(一時差異)が発生しても、その差異が解消するのはその土地を売却する時と考えられます。仮に土地の売却が10年先だったとしたら、そんな遠い未来の税率はわかるわけありません。なので現実的には、「知りうる限り将来の税率」を使って計算するのです。

  • 土地の減損損失を100計上したが、税務上、損金として認められなかった。
  • 税率は40%だが、来年度以降50%となる法案が成立している。
借方 貸方
減損損失 100 土地 100
繰延税金資産 50 法人税等調整額 50

これによっても、P/L上の税金額を会計上あるべき金額に修正するためではないということがわかりますよね?だって、当期の実際の税金支払額は40%で計算されるのに、会計上の税効果会計は50%で計算していますから対応しませんよね。しかし、B/S上の繰延税金資産はしっかり将来の影響を表すことになります。

3.税効果の回収可能性

資産負債法では将来の税金支払の影響を計上と言っていますが、もし一時差異による税金への影響が発現しない場合は税効果を適用してはいけません。例で見てみましょう。

  • 商品評価損100を計上したが、損金として認められなかった。
  • この商品は来期販売予定である。
  • 不況の影響から来期は大赤字になる見込みである。
  • 税率は40%。
借方 貸方
仕訳なし

この場合、一時差異100から繰延税金資産40を計上すると考えてしまいますが、翌期に赤字ということは、課税所得もマイナスとなり支払う税金はゼロになる予定です。棚卸資産の一時差異が解消する期に税金がゼロということは、どうあっても当期末のこの一時差異には税金支払額を変動させる効果はない回収可能性がない)ということなので、繰延税金資産は計上できません。

この場合も、税効果会計を適用してもP/Lの税引前当期純利益に税率40%をかけて計算されるあるべき税金額になりませんよね?ここでもB/S上の繰延税金資産・負債の額を適正な金額にしようとしているのであって、P/Lの”あるべき税金額”とか無視してますよね。

4.税効果会計の目的まとめ

ここまでの記事を理解できたあなたは、もはや税効果をほぼ完全に理解できたといえます!安っぽい市販テキストでは繰延法寄りの解説しかされていないので、なかなかこのようなことは書かれていません。税効果の本当の主目的は「将来の税金支払の影響額をストック情報としてB/Sに表示させるため」ですよ!

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コメント

    • 匿名
    • 2014年 11月 22日

    税効果基準二1 適用の必要性
    このため、税効果を適用しない場合には~
    ①法人税等と利益が対応せず、
    また、
    ②将来の法人税等の支払額に対する影響が表示されない
    だから税効果が必要

    目的は二つある。①はPL面からの目的で②はBS面からの目的。
    この二つの目的はときに対立することがある(税率変更や純資産直入など)

    資産負債法を採用してるんだから②が主目的って理解でいいですか?

    • ②が主目的かどうかは、基準はしっかり言及していなかったはずですが、間違いないです。
      なので試験で「税効果の目的は?」と聞かれたら①と②両方書くべきです。
      しかし会計士論文のような試験で主目的は?みたいな聞かれ方したら②でしょう。

    • ゆうや
    • 2014年 11月 26日

    その他有価証券を当期末時点で売却したと仮定するところで、なぜ評価差額分が売却益に該当するのですか?

    • 売却益には該当しません。
      フロー情報は変動しませんが、ストックが変動しているので(その他有価証券の価値がB/S上で評価されている)税効果を認識するということです。

      要はB/Sでその他有価証券(資産)が100増加→そのうち債務としての税金分40を負債計上→繰延税金負債、ということです。
      まだ売却していないもので、資産が100増えているのに、負債が40計上されないとB/Sの情報が歪みますよね?
      つまりその他有価証券の税効果は、ストック情報だけにフォーカスしているといえます。

        • ゆうや
        • 2014年 11月 26日

        なるほど!!!
        売却した時に税金が発生するという点について詳しく教えていただけますか?

        それと負債が40円計上されないと貸借対照表が歪むとはどういった意味でしょう?(((^^;)
        PLの費用収益対応の原則みたいのありましたっけ?

        質問多くてすいません(T-T)

        • >>売却した時に税金が発生するという点について詳しく教えていただけますか?
          売却時には、売却益がP/Lに計上されるので、それに法人税等が課税されます。

          >>それと負債が40円計上されないと貸借対照表が歪むとはどういった意味でしょう?
          これは書くと長くなりそうなのですが、
          昔はP/Lをちゃんと作る→B/Sは帳尻合わせ、的な考えが主体だったのですが、
          近年は、B/Sもちゃんと作ろうってことで、資産や負債の定義がしっかりなされています。
          そのため、繰延税金資産負債に該当するものは、資産と負債の定義を満たしB/S計上されないとダメなのです。
          つまり、その他有価証券は資産の定義を満たし資産計上されているのに、その税金支払効果は負債に該当するにも関わらず、B/S計上されないのは不合理という意味です。

          >>その他有価証券の一次差異の解消時の処理についても教えてください!
          これはさすがにテキストに載っていると思いますよ。有価証券は通常の売却処理、税効果は消え去るだけです。

            • ゆうや
            • 2014年 11月 26日

            本当に詳しく解説ありがとうございました(T-T)!
            理解できました!!!

            • ゆうや
            • 2014年 11月 26日

            やっぱり上の『将来この「その他有価証券」を売却するとき税金が発生します』
            というのがよくわかりません汗
            売却益が発生するのはわかるんですが、それとその他有価証券の時価評価の直接的な関係がわかりません、

            たとえば時価50円のその他有価証券があり、法人税法上では簿価30円だとして20円の評価差額が計上されて税率40%なら8円の繰延税金負債が計上されますよね?
            この繰延税金負債が売却されたときに含まれてるという意味ですか?

          • 繰延税金負債の額が売却されたときに含まれてるかどうかはわかりません。
            3/31(期末)に評価差額20、DTL8を計上して、4/1にすぐ売却すれば、法人税等の課税額はほぼ8に近似するでしょうね。

            こういった点が問題ではなく、期末時点でのストックを時価評価した関係で負債が発生したのでDTLを計上するということです。
            例えば、将来の有価証券売却価額が、簿価と同じなら税金は発生しないので「あのDTLは何だったんだ?」ってなりますよね?関係はありません。
            あくまでストック情報として必要不可欠なのです。
            『今の時点の情報では、将来8のキャッシュアウトが発生するかもよー』っていう一時点の情報を開示したいだけですから。

            • ゆうや
            • 2014年 11月 26日

            本当にありがとうございました(((^^;)!!!!!!!
            日商1きゅうがんばります!

            • ゆうや
            • 2014年 11月 26日

            税効果会計に関する会計基準には資産負債法なのに一次差異の認識の中に収益と費用の帰属年度が相違する場合である期間差異も入ってますね!?

            これは繰延法の考えも一部取り入れているというかとでよろしいですか?

          • そういうことです。一時差異等には期間差異が含まれなす

            • ゆうや
            • 2014年 11月 28日

            お久しぶりです!
            以前質問させていただいたものです!

            税効果のアプローチの違いについてかなり理解できてきたのですが、もうひとつ質問があります!

            資産負債法では差異解消時の税率で計算し、税率の変更時にはまた再計算するため、発生時と解消時の税引前当利と法人税等はしっかり一致する。

            繰延法だと再計算は行わないから変更されたらその変更時の利益には一致してない税金が計上される。

            この理解ってあってますか?

            またこれらのうち欠点、良点ってあるんですか?

          • そうですね。
            繰延法は、差異発生期にP/Lで利益と税金が対応する。資産負債法は、差異解消期にP/Lで利益と税金が対応する。というのが基本です。

            メリット・デメリットはそのままで、資産負債法ではB/S上のDTADTLの額を負債の定義に沿った適正な額にしやすい、反面発生期のP/Lの対応関係が崩れやすい。
            繰延法はその逆です。

            • ゆうや
            • 2014年 11月 28日

            なるほど~!!!!
            ありがとうございました!

            でも不思議ですね!
            その期の利益に対応してない納付額に税率の変更によりなってしまっても税効果と言えるのでしょうか(((^^;)

          • そこはやはりB/S重視なんですよ。
            税率が変更されたらDTADTLを適正額で計上しなおすって非常に理にかなっていると思いますよ。
            おそらくその、利益との対応という先入観を一度捨てないと完全に税効果を理解することはできません。

        • ゆうや
        • 2014年 11月 26日

        すいません!
        もうひとつ追加でその他有価証券の一次差異の解消時の処理についても教えてください!

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